タカハシ社長の南国奮闘録
第74話 人間五十年
49歳になった。
ご加護をいただき49年間、生かさせていただいている。
自分が生かされていると思うようになったのは、ホームステイ先のロングビーチで離岸流に飲まれて死にかけた16歳の時からだ。レスキュー隊に助けられ一命を取りとめたが、それ以来、自分のチカラで生きているというより、生かされているのだと感じずにはいられなくなった。
このときの私は、乱世で源氏に討たれた平敦盛と同年代。幸若舞「敦盛」の一節に、「人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻の如くなり」という詞がある。「人の世の五十年の歳月は下天の一日にしかあたらない、夢幻のようなもの」という意味だ。16歳の若さで敵に討たれた敦盛は、何を思い、逃げることなく戦ったのだろうか。
戦国の世を戦い抜いた上杉謙信は、49歳で亡くなった。病による志半ばの死であった。辞世の句は、「四十九年 一睡の夢 一期の栄華 一盃の酒」。「49年の人生もほんの短い間の儚い出来事であった」という言葉を残して息を引き取るその瞬間、謙信は何を思ったのだろうか。
半世紀の時も、過ぎてみれば瞬きほどのもの――。敦盛と謙信の句に共通しているのは、そういうことである。私自身、半世紀を過ぎようとしている今、自分の人生を整理しながら思い返すと、瞬く間のように感じる。
しかし、これから夢見る先の出来事には答えがない。百年カレンダーに自分の残された寿命を仮に設定してみたら、思ったほど時間は残されていないことが分かった。きっと過ぎてみれば、一盃の酒ほどの出来事になるのだと思う。だから私は、その酒をこの世で一番美味しく仕込み、最後にみなと分かち合いたいと思う。そのためには足元をどうしていくかが大切だ。
タイはまだまだこれから何十年もかけて発展していく。弊社ではこの立春より、ここ数年で新しく創出してきた事業の芽を茎に育て、一つひとつを形にし、改善活動を行っていく。花が咲くまでじっと養分を蓄え、準備をする。そして身の丈に合わせて、じっくりじっくり安定軌道に乗せたていきたい。
リーマンショックで大きく落ち込んだ装置産業が今年より好調となり、多少ではあるが、日本の好景気の恩恵をいただいている。
今年は「じっくり構えて地ならしの年」とテーマを定めているので、急成長を目標とするよりも、納期、品質面でお客様に満足してもらえるよう、社員教育と現場のモチベーションアップに全力で取り組んでいく。
未来の壮大な夢を語るより、今日一日に感謝して、精一杯、自分の命日に向かって精進して生きていきたい。残りの人生、タイの地で着実に年輪を重ね、幹を強く、根を深く生やしていければと思う。