タイ人起業家の挑戦 中国製ハイテク機器に商機あり

昨年のタイのBOI(投資委員会)申請では中国が初めて日本を抜いてタイへの圧倒的投資国になったなど、タイでの中国の存在がますます高まっている。人口比から見ても中国に日本人の10倍の優秀な人がいてもあたりまえ。中国人にも悪人、善人、様々な人がいるのもあたりまえだが、やる気にあふれた人の比率では残念ながら近年の日本人より断然高そうだ。  タイで企業を回っていると、約束の期日が過ぎても貸した機械を返さないといった悪口を聞かされることも多い。しかしタイで工場用地を即決で買った中国人が感謝の気持ちだとして高額なお土産まで置いていったなどの話を聞かされると中国人がケチだとも言い切れない。あの超大国や人を一言で表現するなんてことは不可能だ。  しかしタイに投資した中国企業はバンコクでの機械購入でかなり嫌われている。純タイのハイテク機械メーカーであるバンコクのCNCBRO.com社では5軸彫刻機、5軸レーザー加工機などの本体は中国の広東省にいるタイ人の実弟が製造、バンコクで自社開発の制御機器などを組みいれたCNC機を製造している。同社にもタイに進出した中国企業が機械を買いに来るが、「揃って口にするのは『もっと安くして』の一点張り。今後10年間は中国企業には売りたくない」と華人系タイ人のチャカポンさんは断言した。「日本や欧米の性能が高い部品をふんだんに使って品質を高めているから当社の機械がある程度の価格になることはやむを得ないが、中国人は品質を無視する」とチャカポン社長は憤懣やるかたない。  バンコクにある純タイ企業のTCR Robotics Thailandは中国の深圳市同川科技有限公司が製造する6軸の産業用ロボット、自動化機器などをタイ市場で販売しているが、「中国企業との商談はいつも値下げ要求ばかり。商談が決裂するまで値下げ要求ばかり」と台湾人のLu(盧)GMはうんざりしている。

CNC機械のスペシャリスト  「CNCBRO.com」社はタイで独自開発したCNC(コンピュータ数値制御)機械の製造販売をこれまで11年手掛けてきた。社長のチャカポン(Chakapol Chandsawangbhuwana 愛称JEFF)さん(42歳)はこれまでに2000台を超えるCNC機械を製造販売してきた。社名である「CNCBRO.com」の「BRO」は中国広東省の省都である広州市で機械製造工場を経営するブラザー(実弟)を意識してつけた。広州の工場では「CNCBRO.com」向けの機械の本体をメインに製造、バンコクの同社でコントローラー(制御装置)などを製造して組み込む。兄弟とも米国で学んだエンジニアだ。  「CNCBRO.com」(www.CNCBRO.com)はバンコクのラマ3世通りにある「テスコロータス」という大型ショッピングセンターの入り口の隣接地に本社を置いているのですぐわかる。同社で製造販売しているCNC機は5軸までの彫刻機(ROUTER)、モールドメーカー(MOLD MAKER)、旋盤やターニングセンター、5軸までのレーザー加工機、プラズマ加工機、フレーム切断機など。顧客の要望に合わせた特注のCNC機の生産も行っている。CNC機の最高機種でも200万バーツ程と日本製に比べかなり安い。  顧客には日系の大手自動車部品メーカー向けのモデル製造用CNC機をはじめとして店舗の入り口などで使われる看板や木製扉や家具関係、装飾関係、宝石部品向けなど多用途。CNCBRO.comのCNC機械は鉄、木、プラスチックの他、石材も加工対象にしている。顧客の8割はタイ企業で残る2割は東南アジア各国を始め日本や米国、欧州企業など。

品質を無視する中国人  タイへの製造業の投資が増えている中国企業を狙わないのかとチャカポンさんに聞いた時に、「タイに進出する中国企業が当社の機械を買うのは10年は先」と断言した。「中国人が当社に来ることはあります。しかしいつも彼らが揃って口にするのは『もっと安くして』の一点張り。日本や欧米などの性能が高い部品をふんだんに使って品質を高めているから当社の機械がある程度の価格になることはやむを得ない。しかし中国人は品質を無視します。そういう価格だけの顧客は相手にしたくありません。結局彼らは本国の中国で安い機械を探してタイに持って来ることにしたのでしょう」とチャカポンさんは見ている。  同社のCNCレーザー機(1325-SS)では、厚さ1ミリのステンレスや軟鋼の一辺が1200~1500ミリの加工を毎分5メートル、精度0.01ミリで加工できる。「ヘッドのレンズを交換することで厚さ20ミリまでのプラスチックや木材加工も同じ機械で両用できます」とチャカポンさんは説明する。「CNCBRO.com」の機械には1年間の保証がついている。販売したCNC機械のセットアップ、メンテナンス、修理などの他、旧タイプの機械に新規の部品や機能を組み込んで新しい形式にするレトロフィット、CNC機械の改造も手掛けている。  学生などCNCに関心ある人を対象とする教育もチャカポン社長自らが実施している。仏教寺院のお坊さんグループが袈裟を着た僧侶姿でチャカポン社長からCNC機で金型を作る方法を学ぶこともある。タイの有名寺院ではその寺院で亡くなった高僧などのレリーフ(浮き彫り細工)を記念品として無料で参拝者に配る。この「プラクルアン」と呼ばれる記念品を大量に作るための金型づくりを僧侶たちは学んだ。ラオス、カンボジア、ミャンマーからも注文があるがほとんどが木工加工用。最近ではブータンからCNC機で装飾品作業を効率化したいと考えた5人のブータン人グループが来社して5日間の特訓が行われている。

タイで中国製ロボットを販売  TCR Robotics Thailand Co., Ltd.は中国の漢宇集団に属する深圳市同川(トンツアン)科技有限公司(以下、同川科技)が製造する6軸の産業用ロボット、自動化機器などをタイ市場に販売しているタイ資本の企業。中国のメーカーと同名のTCR Robotics Thailandはタイにおける同川科技の最大の代理店だが、同川科技が製造するロボットのアームの先のフィンガー部分の設計製造などもサムットプラカーン県バンプリの本社工場で行っている。  TCR Robotics Thailand常勤の代表者はLu(盧)Hung-Chang総支配人(GM)で台湾人。TCR Robotics Thailandには計3人の台湾人がいるが中国人の常勤者はいない。タイで販売した同川科技の機械の客先での据え付け時、メンテナンスや修理時に中国の同川科技本社から技術者が応援に駆け付ける。「同川TCR Robotics」の唯一の工場である深圳市同川科技のホームページ(http://www.tc-robot.com/)によれば、中国では大手自動車組立や電機、機械など日系大手との取引が多いようだ。  深圳市の同川科技は中国で2012年に設立された新しい会社だが、スタンピング、ハンドリング、パレタイジング、溶接、吹き付け塗装などの各種ロボット製造を始め、精密プレスから大型油圧プレス作業を自動化するマニピュレータも多品種製造している。同川TCR Roboticsが製造しているロボットの可搬能力は6キロから50キロ。深圳の同川科技では日本の「協働ロボット」など新タイプのロボットのR&D(研究開発)にも力を注いでいるという。  TCR Robotics Thailandが2017年にタイに設立されてからまだ歴史は浅いが、同社の設立前から同川科技の機械はタイに輸出されていた。従業員数は16人で内3人が台湾人。盧GMはタイに20年程住んでおり、金型製造などに従事した後にTCR Robotics Thailand設立に加わった。

盧GMによるとTCR Robotics Thailandの「顧客の8割がタイ企業だが、在タイ日本企業への販売を増やしたい」と考えている。盧GMによれば同川科技は日本やドイツ、スイス企業の技術支援を得て誕生した会社で、機械の品質の割には価格がリーズナブルと自負している。だが「中国企業の顧客との商談はいつも値下げ要求ばかり。台湾、韓国も同じでとんでもない低額を平気で口に出す」と台湾人の盧GMはうんざりしている。  しかし「タイ企業と日本企業のほとんどは当社の機械の品質の良さを理解してくれ、それに応じた価格を受け入れてくれるケースがほとんど。当社の機械導入により作業の効率化が進み生産性が大幅に向上できるので、省力化に迫られている日本とタイ企業はこの点を評価してくれている」と盧GMは満足している。  同川科技の機械は2015年からバンコクで開催されている展示会に毎年出品してきたが、2017年にTCR Robotics Thailandが設立されて以来は「同川TCR Robotics」ブランドに統一、タイでの認知度を高めるため、「バンコクでは年に2回、毎年6月と11月に開催される国際産業見本市に毎回出展している。今年も申し込んであるが、新型コロナウイルスの流行で先行きが見えない」と盧GMは苦慮している。

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E-mail : kenmazda9999@gmail.com

20年5月01日掲載

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