アルミダイカスト用PVD市場にも本格参入 産業と暮らしを支える高度な表面処理技術
フランスに本部を置く表面処理のプロ集団「HEFグループ」。そのタイ法人「Techniques Surfaces (Thailand) Ltd.(TSタイランド)」は、2年前に金型の表面処理事業に参入。これまでにゴムや樹脂を対象とした金型へのPVDコーティング(物理蒸着)のサービスで高い評価を上げてきた。優れた特性として挙げられるのが離型性改善、高い耐摩耗性、流動性改善の3点。今後、他の分野でも需要も見込めることから、この6月からアルミダイカスト用のPVD市場にも本格参入することとなった。商標名は「CERTESS SD(セルテスSD)」。コアなファンにとって、また一つ重要で確かな選択肢が加わった。
アルミの溶着を防ぐ
セルテスSDは、アルミダイカスト製品を製造する際、溶けたアルミ成分が金型の表面に溶着するのを防ぎ、更にクラックなど金型表面の破損を避ける技術。独自に配合したチタン、ホウ素(ボロン)、窒素を使ったTi-B-N構造のPVD(Physical Vapor Deposition)蒸着が、金型の表面に堅牢で滑らかな薄い膜を形成し、金型の鉄成分とアルミの〝なれ合い〟を防ぐ。 形成される膜の厚さは1~5マイクロメートル(0.001~0.005ミリメートル)とごく僅か。だが、これが金型の表面をまんべんなく覆うことで、従来の処理(窒化+TiAlNコートなど)を遙かに凌ぐ長い金型寿命を実現した。250~450℃の低温で成膜するため金型本体の変形や歪みの心配も少ない。金型へのアルミの溶着も極限までに少なくなった。 加えて嬉しいのが、高い膜硬度や耐熱性によりアルミダイキャスト金型を摩耗や酸化からも保護できることだ。これにより金型のメンテナンスサイクルも大幅に延長した。金型の精巧な状態を長期間保つことができることから、生産に対する不良の割合も極端に減少した。結果、導入時に一定の費用を投じたとしてもトータルコストとしては大幅な削減につながり、企業会計への貢献ともなった。
2年前に金型市場に参入
TSタイランドの金型表面処理市場に対する参入は2019年から本格的に始まった。長年培ってきたPVDコーティング技術を、まずはプラスチックやゴムの成形金型で活用することとした。樹脂などの中には微少のガラス繊維やシリカ粒子フィラーが含まれ、アブレシブ摩耗や浸食摩耗が生まれやすい。金型の表面に硬度の高い膜を施し、最適な耐摩耗特性を持たせることで金型寿命を高めることが可能となった。 成形工程中のガス焼けによる金型表面の損傷を防いだのも特徴だ。塩素などのハロゲンガスによる腐食から金型表面を保護し、耐腐食性の向上も達成した。加えて、金型の離型性を引き上げ、高い流動性も獲得し、金型洗浄や汚れの除去作業など保守頻度の大幅な低減も実現させた。工程サイクルの短縮が生産の効率化を生んだことは言うまでもない。 これらをおしなべて実現させたのが同社のPVDコーティング技術だった。優れた膜厚精度や膜厚再現性により、金型生産が求める緻密性・精密性に見事応えた。だからと言って、成形工程を遅滞させるなどのマイナス点を与えることはなかった。
高いポテンシャルのタイ
TSタイランドは、セルテスSDを従来からの主力サービスであるCLIN®窒化などのラインナップに加えて営業展開する方針だ。顧客や生産する製品ごとに金型コーティングのニーズは異なる。より高い性能を求められるものにはセルテスSDを、従来性能で十分なものについてはCLIN®窒化を勧めることにしている。 タイで幅広いニーズが生まれるようになった背景について、タイ法人の営業責任者である阿部文俊Sales Managerは「量産部品の生産拠点だったタイ市場が大きく変化していることが大きい」と解説する。もっぱら日本からの輸入に頼っていた主力部品の現地化もあると指摘する。そのうえで氏は「アルミダイカスト製品への品質向上要求は間違いなくタイに存在する。高いポテンシャルを感じる」と話す。 新たな営業ツールとして備わったセルテスSD。すでに欧州や米州、日本の各市場ではサービス展開がされており、その高い性能と効果は衆目の一致するところだ。新たな生産拠点としての成長を目指すタイのモノづくりで、注目が集まることは確実だ。
異業種へも参入
同社はまた、さらなる異業種への参入も目指している。すでに、その高い表面処理技術は、自動車部品、精密機器、民生品などに拡大しているところ、医療機器や食品などの分野にも応用できることが分かっている。こうしたニーズに応えるために新たに提供されるのがセルテス・シリーズの一つ「CERTESS LIFE C(セルテスライフC)」だ。 「蒸気滅菌用トレーへのDLCコーティング」と紹介されるセルテスライフC。真空の中でプラズマを発生させ、ダイヤモンドの硬度に近いカーボン膜をコーティングさせるのがDLCコーティングで、これをトレー役となるステンレス材(SUS材)などに施す。 従来であれば、医薬品や食品などの製品がトレーに貼り付いて品質等に問題が生じていたところ、コーティング膜によってその低減を図るのが目的だ。トレーの低反応性による衛生状態の確保も容易だ。すでに日本市場などでは用途が順次拡大しており、タイにも有望な潜在需要があるとみる。 HEFグループとTSタイランドが提供する高度な表面処理技術のラインナップ。飽くなき探求心と確かな信頼が、現代を生きる我々の産業と暮らしを支えている。
Techniques Surfaces (Thailand) Ltd. 700/15 Moo 6, Amata City Chonburi T. Nong Mai Daeng, A. Muang Chonburi,Chonburi 20000 Tel:038-213-818 Web:http://hefthai.com
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2021年7月1日掲載