砂糖王国タイ ―甘みを巡る産業変革―

甘味料として私たちの生活に必要不可欠な砂糖。実は、ここタイは世界有数の砂糖生産国として知られている。今回は、タイの砂糖産業に迫った。

取材・文 Bussayarat Tonjan、長沢正博

 

国際化を進める製糖大手ミトポン

タイの地方を訪れた人なら、一度はサトウキビ畑を目にしたことがあるかもしれない。成長すれば人の背丈を優に超え、風が吹くと葉同士が擦れる音が聞こえてくる。砂糖の原料になるサトウキビはイネ科の多年草で、東南アジアまたはインド原産と言われている。強風や水不足に強く、南部を除くタイの各地で広く栽培され、タイはサトウキビの世界有数の産地となっている。2016/2017年のさとうきび生産量(推測値)は9,300万トンで、ブラジル、インド、中国に次ぐ世界第4位。砂糖生産量は1,000万トンを越え、2016/2017年で世界第3位につけている。日本では沖縄県などでサトウキビが、北海道で同じく砂糖の原料となるてん菜が栽培されている。その他にも日本は原料糖を輸入しており、日本の砂糖の6~7割ほどを占める。そして輸入する原料糖の約5割はタイから輸入している。それほど、日本にとってタイは大きな存在である。

タイの製糖最大手ミトポングループはサトウキビ・砂糖ならびに関連事業を50年以上展開しており、今では国際基準に即した業界にリーディング・カンパニーとなった。

ミトポンは1946年にラチャブリー県で発足。白砂糖の加工工場への濃縮つなぎ液の供給にたずさわり、その後、1956年に砂糖工場を建設して、砂糖の自社生産を始めた。以来、市場の需要増とともに事業を伸ばし、現在に至る。今やタイ最大の砂糖の生産量と輸出量を誇り、また世界第4位の砂糖メーカーでもある。タイ国内にはスパンブリー、カラシン、シンブリー、チャイヤプーム、コーンケン、ルーイの6県に計6カ所の工場を持つ。

早くから国際化を進めており、1993年、中国の広西地方に生産基地を開設。中国進出は順調に進み、いまでは7カ所の工場が稼働し、中国第2位の砂糖メーカーになった。年間1,000万トンのサトウキビを処理して、年間130万トンの砂糖を生産している。2006年にはラオスのサヴァナケートでミトラーオシュガーを設立し、砂糖事業への投資をスタート。生産された砂糖の多くはEU向けに輸出。ラオス政府から事業権を得て、サトウキビ栽培と工場経営の用地6万2,500ライを取得している。現在はサトウキビ日産12万3,000トンまで生産力を増強、年間1,300万トンのサトウキビを圧搾して、年間140万トンの砂糖を生産している。2011年にはオーストラリアのクインズランド州でMSFシュガーを設立、砂糖事業への投資。オーストラリアの主要な砂糖メーカーとなり、年間470万トンのサトウキビを圧搾して、年間50万トンの砂糖を生産している。昨年末には、インドネシアにあるシンガポール企業の子会社の株式を取得し、同国での砂糖事業に参入した。2020年には東ジャワ州に新工場を稼働させる計画だ。

ミトポンのサトウキビ事業部のバントゥーン・ウォンクソンキットCEOは「ミトポングループは世界レベルのイノベーションを工場に導入して生産効率を高めています。また、オーストラリアの工場管理方法を導入してコストを低減。生産から梱包、輸送の各工程までコストが低減するとともに、環境にも配慮した中で、生産を上げることができました。また以前の稼働状態に比べて、電力は30%節減しています」と語る。

活性炭素の技術を導入した工場では、より純粋な砂糖が抽出できるとともに、精製プロセスでのつなぎ液の色素を抜くことが可能となった。またカーボン低減ラベルの認証を受けたタイ最初の砂糖工場となった。温室ガス管理機構およびタイ環境研究所による認証である。生産工程からの炭酸ガスの放出が10%以下であることが認証の条件である。

バントゥーン氏は「現在、1日21万5,000トンのサトウキビを生産する能力があります。2017年の年末には年2,100万トンの砂糖を生産することになるでしょう。タイ最大の製造・販売を進める企業であるのみならず、ISO、GMP、HACCPなどの工業認証を取得、当社ブランドの多くの商品が表彰されており、消費者の絶大な信頼を得ています」と話す。

チャイヤプーム県プーキアウの製糖工場は最近、持続可能なサトウキビ・砂糖産業を目指す団体ボンスクロより国際認証を取得した。タイでは初めてのことで、生産工程、生態システム管理、適法な業務、とりわけ人権、労働者の待遇などを包括する全般的な標準をクリアした。新時代の農業方式に沿った管理が中軸になっている。成功を収めたミトポン・モダンファームの事例で、サトウキビ農家の収入を増やす一方、労働人員を減らして生産コストを25%低減した。5,000ライを超えるサトウキビ畑の土壌と空気が世界レベルのボンスクロ認証をクリアしたのである。2年後には同工場の全領域の1万3,000ライのボンスクロ認証取得を目指している。またサービス面では時間厳守、顧客のニーズに適合した最新のサービスを進める。長年守ってきた国内市場のシェアのトップの地位がさらに堅固になるだろう。

今後の砂糖業界の動きについて、バントゥーン氏は「タイの砂糖業界の業績は次第に良くなっていきます。これまでタイの砂糖消費は増えてきました。将来も増え続けるでしょう。世界的な砂糖の消費が増えている国はインド、中国、中東、アフリカで、アセアン地域もこの中に入ります」と語る。

日本では1973年に砂糖の国内消費がピークの年間318万トンに達したが、その後は、清涼飲料水に含まれるトウモロコシなどから作られた果糖ぶどう糖液糖などの異性化糖の台頭、砂糖庁背品の輸入の増加、消費者の低甘味嗜好などで最近では年間200万トン程になっている。しかし、世界的に見れば、人口増加や新興国の経済成長などを背景に消費量は増加傾向を続けている。タイも近隣には経済発展が進むミャンマーやラオス、カンボジアなどを抱え、製品の高付加価値化を推進している。

 

タイの砂糖産業で浸透狙うシンフォニアテクノロジー

今、タイ国内では数十社ほどが政府の認可を得て、製糖工場の拡張や新設を計画しているという。つまり、まとまった設備投資が行われる可能性があるのだ。

多彩な電気機器の製造販売を手掛けるシンフォニアテクノロジーのタイ法人シンフォニアテクノロジー(タイ)でも、振動機において鋳造と並び製糖産業への展開に力を入れている。「特に砂糖と食品は、メインユーザーになってきています」とシンフォニアテクノロジー(タイ)で振動機事業を担当する枕邊俊一氏は語る。シンフォニアテクノロジーは同事業で半世紀以上の歴史を持ち、日本の製糖工場では搬送から乾燥、冷却、ふるい分けなどまで幅広いシーンで導入されている。タイでは2012年から振動機の生産をスタート。ミトポンの工場などにも導入され、分離機で分離された後の砂糖の搬送などで使われている。

タイの製糖工場では現状、振動機より安価なベルトコンベアを使用しているケースが多い。ただ、ベルトコンベアでは、工程の継ぎ目などで吹きこぼれが発生して生産ロスが生じ、清掃も必要で人件費もかかる。また、ベルトと回転体のメンテナンスも欠かせない。その点、振動機は吹きこぼれが生まれず、回転体は砂糖と接触しないためメンテナンスがベルトコンベアよりはるかに容易。異物混入も起きず、生産性と品質がまるで違ってくる。高付加価値化にはうってつけの設備となる。

ただ、中国企業も参入して来ており、実際に機械を目にしたことがある枕邊氏は「なかなか良いものを作っていました。脅威に思っています」と率直に話す。さらに砂糖の国際価格は現在、下落傾向。製糖会社が実際に設備投資を実施するのか不透明な部分があり、枕邊氏も「読み切れない」と語る。

シンフォニアテクノロジーはシンガポールとインドネシアに販売・サービスの現地法人を構え、アセアンでの受注はタイの自社工場で製造している。今後は、一部デザインを日本からタイに移管するなど、現地化を一層進めて、競争力を高めていく方針だ。鋳造分野でも、自社製品のリフティングマグネットと振動機をセットに自動化を含めた提案をするなど、新しい取り組みをスタートさせている。

枕邊氏は2003年に入社後、振動機の営業を一貫して担当。2013年からタイに駐在している。「少しずつタイで知名度が出てきましたが、まだ普及という意味では遠い。良い品質の機械を市場が求める価格帯で提供して、業界の自然な横のつながりで広まっていくようにしたい」と意気込む。同社がタイで製造していない製品も、日本から取り寄せることが可能となっている。

ローカル企業、日系、日系以外の外資も入り混じって、タイの砂糖産業は新たな時代に入りつつある。

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