泰日工業大学 ものづくりの教育現場から
第88回 『技術系学生の日本語習得指導』
タイでのものづくり教育を進める泰日工業大学(TNI)の例をもとに、中核産業人材の採用・育成について検討します。本号は前回に引き続き、TNI山口ひとみ日本語講師のJセミナーでの表記タイトルの講演(2019.6.12実施)をまとめたものです。 以下は、前回の重要な前置きの第2回目になりますが、TNIは、限られた大学教育1500時間の中で、なぜ日本語学習に努力するかをご紹介します。特に工学部では、専門技術のみならず、日本語・英語学習も大事にしています。語学専門学校で、1000時間を超えれば、簡単な通訳が可能なN2級レベルになる目標を設定できますが、この語学だけであると秘書業務中心の仕事になり、企業の各分野で活躍する可能性は難しくなります。 この限定された時間で目標を達成するには、ここで山口講師がご紹介する仕組みと工夫と共に、日系企業でのインターンシップや、個別指導の日本語チャットルールやボランティアとの自由会話時間、日本人交換留学生との交流、さらに短期・長期の日本語留学を奨励し、毎年200人以上の語学等の留学機会を設けることなどでカバーしています。Jセミナーは年2回(6月・11月)、日系企業と日本人向けに実施しており、タイ人から日本企業と日本人に興味あるテーマを日本語で話してもらうのが特徴です。皆様のご参加を期待しています。
編者:吉原秀男(Yoshihara Hideo)泰日工業大学(TNI)学長顧問
3. JPNにおけるCan-do重視
下の表は、学期毎の段階目標だが、第1段階の大まかな状況から進み、5段階目は、より明確な「〜できる」にしている。なおJPN101-1課のCan-do List例も添付する。 日本語能力試験は、下記ウェブサイトで目安が分かるが、ペーパー試験で、「読む・聞く」の受容中心で、コミュニケーションの一部だが、「話す」試験はない。その意味で、より客観的なCan-doのほうが、分かりやすい。 TNIでは3年生を対象にJLPTに準じたAbility test を実施している。2018年では、N4相当の学生は992人中52.6%である。 *参考:日本語能力試験(JLPT) N1~N5:認定の目安https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html
4. 外国語としての日本語学習と困難点
•日本語習得において考えられる困難点は、次の3点。
①日本語に接触する機会が少ない。
②日本語を使用する機会が限られている。
③日本語学習へのやる気の維持。
➡日本の英語教育と似た感じ。特に工学部学生は日本のゲーム、マンガは好きだが日本語自体には興味がない学生もいる。一方、情報技術学部学生はゲームもマンガも好きで、日本語にも興味がある学生が多い。 •日本語習得における困難点。
①語彙:タイ語より語彙が多く、覚えられないと、学生から言われるが、語彙を増やすには、日々日本語に触れる必要がある。
②文法:助詞・活用・時制(テンス)。
③漢字:一つの字に複数の読み方がある。
④発音:タイ語にない音がある。ただし、最近の学生は発音がものすごく悪いという学生はあまり見かけない。
5. 困難点の対応
•グーグルクラスの活用:今の学生はインターネットを日常的に使用している世代で、宿題は何度でも提出可にしている。 •手軽にどこでも、いつでも練習ができる、また繰り返し練習できる。 •文脈のある状態で語彙に出会うことで、単語を文章にして覚え、語彙の習得を促す。 •学生が日常的に使用しているインターネットの環境に似せる。 •受容ばかりでなく、産出を促す練習としてビデオ提出の課題を出す(例えば、プロジェクトで近所の屋台を紹介する)。 •順番を変えるゲーム感覚の取り組み。
6. コミュニケーション言語能力+コミュニケーション言語活動の補強
特に工学部の学生は、取得単位が多く、学年が上がるにつれ、日本語学習へのやる気を失いがちになるが、学習者の勉強スタイルは多種多様で、うまくバランスをとる必要がある。 ➡期末試験にインタビュー試験を取り入れ、日本語でのやり取り能力を測る機会を設けている。
2020年01月01日掲載