タイ版 会計・税務・法務
第139回 今回のテーマは、新しく導入された 「機能通貨会計の税務」についてです。
Q:最近、税法で機能通貨会計の取り扱いが規定されたと聞いたのですが、円建ての決済が多い弊社でも為替リスク回避のため日本円建ての会計は導入可能でしょうか?
A:機能通貨会計というのは、耳慣れない会計用語かとは思いますが、わかりやすい言葉では「外貨建て会計」とほぼ同義で、例えばタイにある会社が外貨である日本円で決算書を作成するようなことを言います。 外貨建て会計を導入するメリットとしては、貸借対照表で外貨建ての資産・負債が多く、現地通貨での会計では期末の為替評価差損益が大きく発生しているような場合、導入することによって評価差損益の発生を防ぐことにより、為替変動に強い経営をすることができます。また、連結決算を行う場合にも手続きが簡単になるかと考えます。 アジアにおいては、1997年に発生したアジア通貨危機の際、外貨建て親子ローンに起因する莫大な為替差損が発生したことから、外貨建て会計の許容が要望されており、国際会計基準(IFRS)で「機能通貨会計」という形で外貨建て会計の概念が導入されたことから、他の国ではそれにそった形で、外貨建て会計の許容が行われてきました。タイにおいても、IFRSに準拠したタイ会計基準のTFRS for PEAsが主に上場企業を中心とするPAEs(Publicly Accountable Entities)に適用されてきましたが、本年5月に税務通達が出され、税務上も機能通貨建て会計が許容できるようになりました。 この機能通貨建て会計を使った納税についての要点は以下のとおりです。 ①機能通貨を使った会計を行う際には、その会計期間の開始から6ヶ月以内に税務署に届け出を出さなければならない。②届け出時、監査人よりの機能通貨使用に関する証明書を提出する。③機能通貨以外の通貨の換算方法については税務通達に沿った形で換算を行う。④機能通貨の変更時には、その旨届け出を行わなければならず、その際も監査人の証明を要する。⑤記帳においては、会計基準に準じた形で行われなければならない。 この税務上の通達により、タイにおいても外貨建て会計が形としては実際に利用することが可能になったとも言えますが、この「機能通貨の利用」について規定されているのが、あくまで上述のように上場企業等に適用されるTFRS for PAEsだけであり、現在、日系企業の殆どに適用されているTFRS for NPAEs(非上場企業向けタイ会計基準)では機能通貨の利用についての定めがなく会計通貨としてはタイバーツしか認められていないため、外貨建て会計を使える会社はあまりないのではないかと思われます。 また通貨危機の頃と異なり、タイバーツが強く推移していることや、各会社で為替リスク管理が高度化されていること等から、外貨建て会計導入のニーズは以前ほど大きくないのかもしれません。 ただし、適用が延び延びになっている、TFRS for NPAEsに代わるとされる新しい会計基準「TFRS for SMEs」では機能通貨についても規定されるとされていますので、将来は外貨建て会計の利用がより一般的になる可能性もあります。
本文書は一般的な検討を行ったものであり、個別のケースで問題が発生した場合には、多くの場合関連法規の検討や専門家のアドバイスが必要となります。そのため、本文書の著者及び所属先は、本文書の掲載内容に基づいて実施された行為の結果、並びに誤情報及び不備については責任を負いかねますのでご了承ください。なお、法務・税務・会計の情報詳細については、MAZARS(THAILAND)のHPもご参照ください。
小出 達也 (Tatsuya Koide)
Mazars(Thailand)Ltd. ジャパンデスク パートナー
1987年京都大学法学部卒業。旧東京銀行入行。中小企業事業団 国際部、東京三菱銀行 マニラ支店(1997年12月から2001年3月)、同行国際業務部勤務(国際財務戦略業務)を経て、2005年4月に公認会計士資格取得。2008年からMazarsタイにおけるJapan Desk責任者に就任。国際財務戦略に関する豊富な実務経験をもとに、総合的な視点からタイにある日系企業の指導にあたって、現在に至る。公認会計士(米国)、公認金融監査人。
連絡先:02-670-1100; Email: Tatsuya.Koide@mazars.co.th
ホームページ:http://www.mazars.co.th/Home/Our-services/Japanese-Desk
2020年12月1日掲載