タカハシ社長の南国奮闘録
第53話 道理が良縁を運んでくる
「無理が通れば道理引っ込む」
人が理性的に生きるうえで、とても重要なことわざだ。タイに長く住んでいると、タイの文化やしきたりに紛れてわからなくなってしまう人もいるようだが、タイ人も決して道理がわからないわけではない。
私は経営者として、経営について努力をしている。なぜならこれでご飯を食べているプロフェッショナルだからだ。しかし一方で、経営が何たるかを語る前に、当たり前のことを当たり前にできる人間であるべきだと思っている。人の道理に反してはいけない。私は義理と人情を大切にする古いタイプの人間だ。しかも、道を踏み外せば必ずバチが当たると信じる、少しオカルトチックな面もある。
ここタイでは、利益よりむしろ道理を大切にしたほうが会社は成長していく。なぜなら企業文化は、社長とそこで働く人たちによって作られていくからだ。そして風土文化に集う人が利益を生む。
道理のわかる人が、道理のわかる人と結ばれる。つまり大切なのは、良縁によって集まってくる社員に恵まれること。道理が良縁を運んでくるのである。
辞めていった人も、通り過ぎてみれば、あの人も成長のために来てくれたんだなと後になってわかる。逆に足を引っ張るような縁は、道理に外れたときの仕返しにきたということだ。私はこのような大切なことを、同郷のお客様やご縁のある社長、先輩方から教わった。
ある社長が、不思議な体験を話してくれた。会社が危機を迎えたとき、救世主が現れたそうだ。その人は入社してすぐに新しい事業を立ち上げ、稼ぎ頭になるまでその事業を育て上げ、いつしかいなくなっていたという。その人のおかげで会社はいまも成長し続けているそうだ。遠くを見つめながら話す社長の表情には、その人への感謝の気持ちが溢れていた。後になって、その人の顔がご先祖様に瓜二つであることが、帰国時に親戚に写真を見せてわかったそうだ。
このように特別に凄い縁もあるのだろうが、実はすべての縁に意味があるのかもしれない。そうであるならば、凛とした姿勢でまっすぐ正直に生きて、一つひとつの縁を大切にしなければならない。
恨みや妬みなどの因縁を作ってしまうと、後になってツケが回ってくる。「規則より道徳、遠慮より勇気」という心構えで、自分がどう思われるかよりも、一心不乱に物事に集中して、成し遂げるまで後ろを振り向かないことが大切だ。そして、これらはすべて道理の上に成り立っているということを忘れてはならない。
このタイという世界で、そんな些細なことを共感できる人とともに働きたいと、勝手ながら思う次第である。良い行いを続けていれば習慣となり、社会性に満ちていれば助けてくれる人にも恵まれるようになる。
道理などと大それたテーマにさせていただいたが、あなたの身近にも起きていませんか? 皆さんの会社も良いご縁に恵まれるようお祈りいたします。