特集 タイ製造業の未来へ【寄稿 現場目線からの IoTおよび製造業の今後】AXXEL ENGINEERING CO., LTD. 東條洋一MD
いまや世界各地にその活動が広がり、効率的に管理することが求められる日本の製造業は、IoTの利点が最も生かせる分野のひとつです。コストメリットやマーケットの拡大により、製造業はその拠点を海外に広げてきました。一方で海外でも活躍できるような経験とスキルを持ったエンジニアは限られ、拠点の拡大に対して管理者の補充が追いつかない状態です。また新興国は産業発展につれて人件費も上がり転職が活発化するため、現地でも優秀な人材は確保しにくくなります。こうした背景から海外拠点の管理者不足は大多数の企業が抱える問題であり、遠隔地からの管理や業務改善を可能にするIoTは今まさに求められている技術だといえます。
生産管理や業務の自動化・効率化だけでなく、保全情報や工具・消耗品の管理履歴など、経験者が見ることで業務改善に活用できる情報が生産現場にはたくさんあります。たとえその場にいなくともその情報を共有できれば、複数拠点を同時に管理したり改善することも可能です。そうした情報を遠隔地から活用するためには、最初に現場から集めたデータを一定の基準にもとづき標準化し整理保存することが必要です。
データが正しく十分であれば、それに基づいて正確な分析や管理をすることは可能であり、世の中にはそうしたことのできるソフトも数多く存在します。しかし特に新興国などの生産現場ではいまだ作業者などによる手入力や帳票での報告に頼っており、報告者のスキルによって情報の精度にバラつきが出るのが現状です。投入した材料に対して完成した製品個数とNG数量の合計が合わない、出荷間際になって数量不足が判明したなどという話はよく耳にするものですが、こうした場合などでも記入ミス、計算ミス、記入漏れ、ねつ造、盗難などの様々な可能性があり問題点や原因がはっきりしないのです。ルールに基づいて正しい情報を迅速に集めること。IoT化遠隔管理のためには正確で標準化されたデータを最短時間で取得することがまず必要なのです。
製造業の場合、生産量や品質に関することなど重要な情報のほとんどが生産現場に存在しています。すでに生産スケジュール管理やMRPなどのソフトを業務に活用されている企業は多いものの、現場からのこうした情報を取り込むのは手入力に頼っていることがほとんどです。新興国の場合、もともと言語や文化の違いにより意思の疎通が困難です。それに加えて前述のとおり情報の精度が悪いことが多く、日本式の効率生産を海外で展開しようとするときに大きな障害となっています。教育水準や勤勉な国民性など、現場から上がってくる情報の信頼性がもともと高いのが日本の製造業の特徴です。海外展開においてこのギャップをいかに乗り越えるかが成否のカギを握ると言っても過言ではありません。
製造業におけるIoTはまず「生産現場から一定基準の元に標準化されたデータを正確に素早く集める体制を整えること」なのです。
今日ではほとんどの製造業において設備機械が生産の主体となっており、多くの生産現場で生産数量や不良発生などを設備ごとに記録しています。設備=工程であり、管理・分析や改善に必要なデータは各工程を担う設備ごとに整理保存されるのが合理的です。そうした意味で製造業におけるIoTは生産現場の情報整理、すなわち設備機械を基準とした工場データベースの構築をまず行うべきです。
生産性や品質は設備機械の能力や状態により左右されることも多く、生産分析・管理や改善に必要な情報の大部分が設備機械からすでに発信されています。この情報を自動的に取得できればヒトにより起こる前述の問題は解消できます。また最近の機械では設定値やゲージ類の計測値、故障履歴など様々な情報が表示されるようになっており、外部に出力できるものもあります。しかしメーカーや型式の新旧など様々な設備機械の混在する大多数の製造現場において、同じレベルの情報を出力する方法や規格は全く統一されておらず古い機械にはそうした機能すらありません。
信号や通信方式を揃えすべての設備機械から同じレベルの情報を取得することができれば正確な情報をリアルタイムに得ることができます。様々の設備機械から自動的に取得された正確な情報をデータベースに整理保存する。そこまで出来ればあとはそれをネットワークで共有し、既存のソフトや各社のノウハウで活用することは容易です。製造業におけるIoTは活用ノウハウの蓄積や共有するネットワークの整備など9割がた整っているといっても過言ではありません。しかしこの「設備情報の吸い上げ」が全くできていないのが問題であり、最も重要なポイントなのです。