急成長中のタイ二輪ブランド GPXレーシング

今、タイで勢いに乗っているバイクブランドがある。タイローカルメーカーのGPXレーシングだ。タイと言えば自動車では日系ブランドが8割以上のシェアを誇る日本の牙城。バイクも日系が圧倒的シェアを確保している。その中でGPXレーシングは、昨年末に開催された自動車、バイク展示即売会「タイ国際モーターエキスポ」で期間中にバイクではトップとなる1,109台を受注したのだ。一昨年の同展示会も受注台数2位だった。さらにタイ陸運局のまとめによる今年上半期のブランド別のバイク新規登録台数でも、なみいる日系ブランドに割って入り3位につけている。もちろん、登録台数では首位のホンダなどとは桁が異なり、各社力を入れるモデルも違うため単純比較はできないが、創業からわずか10年ほどでここまで上り詰めたのは注目に値する。まもなく新工場も開所も予定する新興ブランド、GPXに迫った。

AEC市場に向けて新工場建設 月産5,000台に生産能力拡大へ

GPXレーシングブランドの二輪を製造、販売するATVパンサーは2007年創業された、タイ初の国産バイクメーカーである。現在、市場の支持を得て急成長している。

ATVパンサーのチャイヨット・ルワムチャイパタナークン社長は「ATVパンサーの名前で事業を始めたのは10年前のことです。ラマ3世通り沿いに150平方メートルの小さな工場を借りて、4輪バギーの製造を始めました。当時は当社が初のタイ製4輪バギーを作っていました」と振り返る。

GPXレーシングブランドのバイクは7年前から生産をスタートした。「バイク市場に参入した理由は、モトクロスバイクのマーケティングルートが見えたからです。地方の人々はファミリーバイクを購入した後に、各種の用途に応じてあれこれ改造して使っていましたね」(チャイヨット社長)。

2008年、同社は地方への販路を拡大させるために、市場の消費者ニーズに関する事業リサーチを進めた。それで判明したニーズがモトクロスバイクだったのだ。2008年いっぱいをかけ、モトクロスバイクの製造準備に打ち込んだ。また、工場も800平方メートルの規模に拡張した。

2010年には、商品ニーズの増大に応えるため、約4,800平方メートルの第2工場をスクンビットのソイ76に開設。さらに2012年には、16,000平方メートル余りの第3工場をプラチャーウティットに建設している。同時に、工場の生産品質体制も向上させた。

チャイヨット社長は「小さな工場からスタートしましたが、今では300人以上の従業員が働いています。目下、チャチュンサオ県のゲートウェイ工業団地に新工場を建設中です。増え続けるニーズに対応するためであり、将来の輸出の構想を進めるためでもあります。昨年はカンボジア、ミャンマー、ラオスといった近隣諸国、さらにはイラク、ブルネイにも輸出しました。GPXブランドがこれらの地に初めて足跡を記したのです。しかし、現在の生産力は月3,000台程で輸出に力を入れるにはまだ足りません。そのため、3億5,000万バーツを投じて生産力を月5,000台に増やします。またGPXの部品は現地調達率が80%と高く、シャーシはみな国産です。海外からの輸入部品は20%まで下がりました」と語る。

来年2月に操業を始める新工場はタイ工業規格の認証マークを取得した。125~200㏄のエンジンを搭載するが、将来はもっと大きなエンジンも開発したいという。

チャイヨット社長はさらに「GPXの強みはエンジンだけではありません。R&Dチームの三次元スケッチから粘土の塑像の制作まで、設計全般に力を入れたいと思います。バイク市場の主流となっている日本勢との違いを強調する差異化を進めています。というのも、タイの消費者に最も受け入れられるデザインを当社は追究しています」と話す。

 

コストパフォーマンス アフターサービスも一層充実へ

バイク市場の2つの要点は高品質、アフターサービスの充実。同社は度を超えた急成長は望まず、品質とサービスを着実に守ってゆっくりと歩みを進めるつもりだ。長く顧客の支持を得るのが狙いとなる。

チャイヨット社長は「マーケティングの要点は、ブランドの構築とアフターサービスの充実になりますね。顧客満足度が焦点です。初年度は1つのモデルに集中し、次年度は2つのモデル、3年目は3つのモデルに集中する形で、現在は6つのモデルにフォーカスしています。価格は1台29,000バーツからで、決して高くありません。市場において日本勢のバイクと比べて割安感があります」と率直だ。

顧客の様々なニーズに応えつつ、GPXレーシングは今年35,000台販売を目指し、来年は5~10%増を目標にしている。顧客層は若者から40歳代までで、各種のイベント活動も進めている。バンコク国際モーターショー、ビッグモーターセール、タイモーターエキスポへの出展やデパートの展示コーナー、ディーラーとの共同イベントでのブースの参加、販促活動と手を抜くことがない。

「GPXはタイで生れたブランドです。タイ人のニーズの深層を追って商品化してきました。サービスはもとより、スペアパーツの品揃え、車体およびの備品の品質がメインです。また将来の顧客を満足させるため、全国のサービスセンターの装いを一新します。現在、代理店が150店舗展開していますが、2年後はサービスセンター網が全国展開を完了するでしょう。将来さらに増える市場に対応し、どの地方のどの顧客も、新旧取り混ぜた新たな装いのサービスセンターにアクセスできるようになります」とチャイヨット社長は構想を語る。

チャイヨット氏はさらに追加データを語る。「現在、バイク市場は飽和状態で横ばいの様子ですが、当社の商品は125㏄を主力に伸びています。日本勢のバイクよりも15%程度価格が安いのが強みです。過去4年間、ブランド構築に全力を注いできました。その甲斐あってタイ人の消費者の支持が広がっています」。

毎月右肩上がりの売上を睨みつつ、イタリアのデザインを参考に開発を続けているという。クラシックスポーツ、スポーツネイキッド、ミニスポーツなどバイクが同社の主力商品で、全体の50%余りを占めている。

GPXレーシングはタイ人に的を絞った製品で、高品質、適正価格がポイント。「将来はタイ製のバイクを海外でも走らせます。バイクを愛する皆さん、GPXブランドの今後に大いに期待を寄せてください」とチャイヨット社長は意気込む。実はGPXレーシングのバイクは日本にも輸入され、月木レーシングなどで販売されている。

APホンダによれば、昨年のタイのバイク新車販売台数は約174万台。今年については175万台と予想している。チャイヨット社長がATVパンサーを設立したのは、弱冠21歳の時。若き創業社長に率いられて、横ばい気味の市場で着々と販売台数を伸ばすGPXの勢いは、まだ続きそうだ。

取材・文 Bussayarat Tonjan、長沢正博

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