新ファイバーレーザ切断機をMETALEXでPR TANAKA製品をタイ起点に東南アジア拡販
タイに1991年から工場進出してガス供給機器の製造販売を行うNIPPON CUTTING & WELDING EQUIPMENT CO., LTD.(以下NCC)に97%出資する親会社が日酸TANAKA株式会社。日酸TANAKAは、今年3月15日に創業100周年を迎えた老舗企業で、工業ガスメーカー最大手の大陽日酸グループに属す。日酸TANAKAには大型NC切断機を製造する埼玉工場(埼玉県入間郡)とガス制御機器を主に生産している長野工場(長野県千曲市)があり、NCCのマザー工場が長野工場。中国を除く唯一の海外拠点がタイとなる。NCCの淀野薫(よどの・かおる)MDは、2002年4月に大陽日酸の前身の日本酸素からNCCへ営業部長として出向赴任して6年間タイに駐在、その後1年8カ月間の日酸TANAKAでの海外営業勤務を経て、2009年12月から現在まで、MDとして再赴任しており、今年12月にはタイ駐在歴が丸14年となる。
タイで圧力調整器や吹管・バルブなど生産
NCCが生産している主要製品は圧力調整器、吹管・火口やバルブなど。圧力調整器の生産能力は月11,000(日500)台で、吹管は月7,000(日350)本。
工場用地はアユタヤのロジャナ工業団地内の1万6,000平方メートル(10ライ)。現在、使用しているのは5ライで、遊休地として隣接する5ライは将来への拡張用地として確保している。日酸TANAKAでは今年の100周年を記念して「日酸TANAKA百年史」を刊行したが、同時に従業員から「未来に向けた提案」を募集した。淀野MDは5ライの遊休地の有効利用について提案書を出して入賞している。今後、5ライの土地に新工場を建設するなどの動きが出てくるものと見られる。
NCCが生産している製品売上の50%が日本向けで、残り50%はタイやベトナムなどの東南アジア諸国、韓国と台湾、そしてインドやトルコなど幅広く海外市場にある現地代理店へ直接輸出している。NCCはタイに進出して以来、タイBOI(投資委員会)の奨励企業に認定されている。アユタヤを襲った大洪水による操業停止の試練を乗り越えて2015年から営業利益黒字化を連続達成し、大陽日酸の連結子会社としても貢献している。
タイで生産している調整器や吹管は、酸素やアルゴンといった工業用ガスに必要不可欠な機器でありタイではシリンダーガスを扱うディーラー経由で販売されることが多い。NCCのタイ主要代理店はタイローカル企業が2社、日系企業が1社。この日系企業は「シリンダーガスを何万本も所有し、一般グレードから高純度仕様の工業用ガスを使用する顧客をタイ国内に数多く持つガスディーラーで、彼らのユーザー向けに我々がアユタヤで製造しているTANAKAブランド調整器を積極的に販売してもらっている」と淀野MDは説明する。
大型NC切断機の保守メンテナンスも開始
当初は調整器や吹管などの生産だけだったNCCだが、2011年5月に商務省からビジネスライセンスを取得し、日本の海外営業部がタイや近隣の東南アジア各国へ販売したTANAKAブランドのレーザ、プラズマ、ガス切断機など大型NC切断機の保守メンテナンスサービスを開始した。経験豊富な日本人サービス員がタイ人技術者と組んでタイを起点に対応。2013年11月からはTANAKAブランド全製品のアジア向け営業拠点の機能も付加された。
タイでは日本製「KT-5NX」という直線切断の汎用機の在庫もしている。この切断台車は、「過去50年近く基本設計が変わらず、名機と呼ばれる日本製可搬式自動ガス切断機であり、短納期でアジア各国へ供給できる体制をとっている」(同)という。プラズマやレーザ切断機といったNC装置が搭載された大型機をタイで在庫販売する方針は今のところない。
日酸TANAKAの大型NC切断機の最大の特徴は、両側ラック&ピニオン駆動のガントリー本体に切断トーチブロックを搭載、中厚板の切断領域をターゲットに、客先の仕様に合わせたカスタマイズ機として、日酸TANAKA本社が受注して納入している点。
TANAKAブランドの大型NC切断機で溶断された部材の多くはタイにある日系や欧米ブランドの建機や農機メーカーで使われている。20ミリ前後の軟鋼材を高速に切断できるため日本では造船業界も主要ユーザーだが、大手造船所がないタイでは造船向け需要はない。現在、淀野MDが重要視しているのは、タイの新顧客候補としてシャーリングを専業にする日系やローカル企業が増えている点。切断作業専門のシャーリング企業にとって同社の切断機、特にレーザ切断機が必要とされてくると見て営業活動を強めていく方針。NCCのタイ代理店である1社でも、日本から輸入したTANAKAブランドのレーザ切断機を社内に設置し、調整器や吹管の販売だけでなく、自前でシャーリング業を開始したという。
NCCが20年以上前からタイで生産してアジア各国へ継続販売している一般グレードのVENUS調整器やHC-391吹管といった汎用品は、中国で「TANAKA」名も入れた悪質なコピー品が大量に出回っており、「日酸TANAKAのブランドイメージを損なう粗悪品が多いが生産販売を止めさせることは難しい。しかし中国のコピー品でも徐々に品質は高まってきている」(同)現状もあるという。そこで「コピー品との価格競争に巻き込まれない、例えば高圧力に耐え、大流量や高純度ガスを流せる調整器など、中国がコピーすることは難しい品質と付加価値を高めた製品をタイで製造して東南アジア各国へも積極的に販売していきたい。同時に日酸TANAKAの親会社でもある大陽日酸が出資するアジア現地法人とのシナジーも追求したい」というのが淀野MDの方針。
今年のMETALEXでTANAKAブランドを発信
炭酸ガスレーザ発振器搭載型レーザ切断機の最大手メーカーでもある日酸TANAKAだが、2015 年秋に発売したファイバーレーザ切断機が日本国内では好調に推移しており、タイでも11月にBITEC(バンコク国際貿易展示場)で開催されるMETALEX 2017で紹介する。実機の展示こそしないが新製品である第2世代のファイバーレーザ切断機「FMRⅡシリーズ」の動画紹介や切断サンプルを多数展示、3Dプリンターでガントリー(門型)を造形したレーザ切断機のミニチュアを動かして、中厚板の切断に適した日酸TANAKAのガントリー設計や駆動方式、レーザ加工技術の高さを広く紹介していく予定。
ファイバーレーザ切断機は、炭酸ガスレーザ切断機には欠かせなかった光学系ミラー、レーザ混合ガス等の消耗品が不要なため、メンテナンス及びランニングコストを大幅に削減させることができる。同機は日酸TANAKAが持つ独自のレーザ加工技術を使って開発したもの。「FMRⅡシリーズ」はファナック製3キロ、6キロワット発振器を搭載することによる「純日本国産仕様」に加え、ドイツのIPG社製発振器による10キロワットという大出力仕様も新たに加わり、切断条件にはよるが従来の炭酸ガスレーザ切断機に比べて切断速度を倍に高めただけでなく、微細加工能力も改善させ、ユーザーの生産性向上に大きく貢献できるという。
「FMRⅡシリーズ」の「より安定した中厚板切断」に自信を持ち、使用電力についても「炭酸ガスレーザ切断機に比べて約70%減るのでランニングコストも激減」と淀野MDは説明する。「FMRⅡシリーズ」は早送り速度最大60M/min(オプション)、6KWファイバーレーザで、軟鋼で厚さ32ミリまでの切断が可能。
ファイバーレーザは取扱いを間違えると失明の事故も起こりうる。そこで「FMRⅡシリーズ」ではファイバーレーザ反射光から目を守る安全性を確保して人にやさしい機械にしたことも大きな特徴。具体的には切断機本体のトーチと機械全体に2重カバーを装備、切断定盤には独自のファイバーレーザ用切断定盤(ダイヤブロックⅡ)を採用してファイバーレーザ反射光からの安全性を確保した。一方で切断機周囲の遮光壁設置が不要なことから従来の炭酸ガスレーザ機同様の作業性を実現させている。
他の特徴として、ファイバーレーザ専用加工ヘッドを新開発、機体設計も一新した低重心、コンパクト構造とし後方の視認性などの安全性を確保、タッチパネル付15インチLCDの採用、前面全ての開閉が可能な構造などで操作性の大幅な向上が実現できたという。日酸TANAKAでは他にも最新鋭の開先プラズマ切断機「KT-790PMXⅡ」などの新製品も最近、続々と市場に投入している。
NCCの従業員数はタイ人が74人と日本人常勤者が3人。労使関係は円満で労働組合はない。年に1人が辞めるか辞めないか程度の離職率であり、居心地のよい会社といえる。
同社最大のピンチは2011年10月に大洪水に襲われて、工場と事務所が2メートル以上浸水、生産設備が全滅したこと。その年はタイ工場が操業してちょうど20年目にあたる年だった。近隣に住む従業員が保有していた手漕ぎボートに乗り込み、洪水で沈んだ工場を見た時には茫然自失した淀野MDだが、気を取り直して再稼働に向けて全力で取り組んだ。幸い損害保険に加入していたことから経営危機は免れた。また、ほぼ全員の従業員が辞めなかったことも工場復旧への大きな力となり、40日間浸水した工場を見事に早期復旧させた。淀野MDが日酸TANAKA本社に対し休業(自宅待機)中の従業員の基本給ノーカットを提言して認められたことも従業員のやる気を高めたようだ。
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